蕪村の芭蕉-金福寺の芭蕉庵 |
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金福寺 |
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金福寺・本堂と庭 |
金福寺は、近くの圓光寺の鉄舟和尚が荒廃していたお寺を再興したもので、臨済宗南禅寺派のお寺となって現在にいたっている。 金福寺は、他の多くの有名な寺社が観光客意識が強いのに比べ、自然で質素で蕪村愛好者向けで好もしい。蕪村・芭蕉ゆかりのお寺さんは観光とは一線を画しているようだ。京都のお寺は、信者・檀家のためのお寺と観光客用のお寺があるそうだ。さしずめ金福寺は、蕪村・芭蕉愛好者のような特別の趣味・趣向をもった人のお寺と言えそうだ。 |
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江戸元禄期、松尾芭蕉は吟行中、金福寺の鉄舟和尚を度々訪れ親交を深めていたという。鉄舟は境内に草堂を建て、芭蕉を慕って「芭蕉庵」と名付けたが、やがて荒廃した。芭蕉に心酔していた儒者、樋口道立が庵の再興を発起したりしていたようだ。 |
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蕪村は芭蕉を敬慕し師と仰いでいた。俳諧に向かう芭蕉の真摯な姿勢と俳諧革新の静かな熱情に、蕪村も心揺さぶられるものがあっただろう。師と仰ぐ芭蕉に近づきたいと念じながらも、蕪村が詠む句はどうしても芭蕉とは異なってしまう。師の求道的で禁欲的な「俳諧の誠」追求の主観性の強い句に対して、蕪村の句はやや享楽的で、主観性を抑えているが抒情的な句になっている。蕪村の、客観写実ではないが、自由で解放的な感性や郷愁の淡い抒情性が現代人のセンスにもマッチして受け入れやすいように思う。 |
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この芭蕉の肖像画は蕪村筆によるもの。ときに蕪村64歳。蕪村がこの寺のために揮毫し奉納されたものといわれる。この肖像画の上部には、芭蕉を賞賛した清田たん叟の撰文と芭蕉の句の中で蕪村がもっとも好んだものを蕪村自身が書いてこの画像の賛としている。それぞれ芭蕉の主観的な想いが強い、味のある句ばかり。蕪村の句とは遠くて近いような。 |
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蕪村筆「紅山清遊の図」 蕪村胸中の図、天橋立か。味のある南画風の画。 |
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あいにくの雨で、芭蕉庵は閉められていて、内部は見られなかった。外観はなかなか味のある形で、茶室風でもあるが生活感のある芭蕉庵にふさわしいようにも思う。最近リフォームしているようで、茅葺き屋根も表面の壁や窓も整備されていた。天気の良い日には修復が始まるのだろう。
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芭蕉庵の横の壁。いかにも閑古鳥が鳴き、しみじみと一人生きる淋しさにしたることができそうだ。それにしても「憂きわれを寂しがらせよ」とは、「獨住むほどおもしろきはなし。長嘯隱士(ちょうしゅういんし)の曰、「客は半日の閑を得れば、あるじは半日の閑をうしなふ」と素堂此言葉を常にあはれぶ。予も又」(「嵯峨日記」)の後に続く句。 |
芭蕉庵の横の壁が修理を待っているのか、いい具合に残っている。なんという風合い。蕪村の句に次のような壁漏る煙があるのを思い出した。 春雨や人住ミてけぶり壁を洩る 蕪村 春雨の中、芭蕉と鉄舟和尚がお茶しながら風流や俳諧について語らっている、そんな庵の壁と柱の隙間から煙が漏れて壁を伝っている。そんな叙景を蕪村はイメージしていたのかも知れない。 憂きわれを寂しがらせよ閑古鳥 芭蕉 この句は金福寺で詠まれた句である。私はてっきり落柿舎でと思っていたのだが。この句碑が芭蕉庵の前にあったのだが、写真を撮りそびれてしまった。 |
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誰が建てたか蕪村の立派な墓。 蕪村辞世の句といわれる。名句だと思うのだが、ちょっとかっこつけすぎなのでは。 蕪村は「しら梅」に何を象徴していたのだろうか。心安らかに朝を迎えられたように思われ、よかった。たが「明ける夜」に何を託していたのだろうか。 |
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下京区仏光寺通烏丸西入南側。左の写真の家の前に「与謝蕪村宅跡(終焉の地)」の案内の石柱と案内板が建っている。案内板には、蕪村59歳の時の日記にある、家を見つけたことや家の周りの様子が記されている。 下京や雪つむ上の夜の雨 凡兆 「下京や」の上五は、凡兆の師芭蕉がつけたが、凡兆は気に食わなかったようだ。悪くはないと思うのだが、凡兆には別の思いがあったのだろう、腑に落ちなかった。面白い話だ。凡兆の句は蕪村に似て、客観・叙景性の強い句を思っていたのかもしれない。 |
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庭から出るところにある門が、冬の雨にうるんで、気づけばとてもいい感じ。 |
花守は野守に劣るけふの月 蕪村 一里は皆花守の子孫かや 芭蕉 |
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雨に煙る京の街。芭蕉庵より。 |
受付で、蕪村が金福寺で読んだといわれる句の手書きの竹製しおりを、ついつい買ってしまった。 畑打つや動かぬ雲もなくなりぬ 蕪村 受付でおしゃべりをしていたら、蕪村作芭蕉像の色紙をゲットした。だが、私としては、なぜか芭蕉の肖像としてはどうも納得がいかない。それぞれの芭蕉があり、蕪村があるか。それにしても残念なことは、披露すべき私の句がないこと。 |
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photo by miura 2020.11 |