「ブッダのことば」スッタニパータ  中村元 訳(岩波文庫)
第4 八つの詩句の章
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2.洞窟についての八つの詩句

772

窟(いわや)(身体)のうちにとどまり、執著し、多くの(煩悩)に覆われ、迷妄のうちに沈没している人、──このような人は、実に<遠ざかり離れること>(厭離)(おんり)から遠く隔たっている。実に世の中にありながら欲望を捨て去ることは、容易ではないからである

773

欲求にもとづいて生存の快楽にとらわれている人々は、解脱しがたい。他人が解脱させてくれるのではないからである。かれらは未来をも過去をも顧慮(こりょ)しながら、これらの(目の前の)欲望または過去の欲望を貪る。

774

かれらは欲望を貪り、熱中し、溺れて、吝嗇(りんしょく)で、不正になずんでいるが、(死時には)苦しみにおそわれて悲嘆する、──「ここで死んでから、われわれはどうなるのだろうか」と。

776

この世の人々が、諸々の生存に対する妄執にとらわれ、ふるえたいるのを、わたしは見る。下劣な人々は、種々の生存に対する妄執を離れないで、死に直面して泣く。

777

(何ものかを)わがものであると執著して動揺している人々を見よ。(かれらのありさまは)ひからびた流れの水の少ないところにいる魚のようなものである。これを見て、「わかもの」という思いを離れて行うべきである。──諸々の生存に対して執著することなしに。

778

賢者は、両極端に対する欲望を制し、(感官と対象との)接触を知りつくして、貪ることなく、自責の念にかられるような悪い行いをしないで、見聞することがらに汚されない。

779

想いを知りつくして、激流を渡れ。聖者は、所有したいという執著に汚されることなく、(煩悩の)矢を抜き去って、勤め励んで行い、この世もかの世も望まない。