「ブッダのことば」スッタニパータ  中村元 訳(岩波文庫)
第4 八つの詩句の章
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  14.迅速
915

[問うていわく──]「・・・・修行者はどのように観じて、世の中のものを執することなく、安らいに入るのですか?」

916

師(ブッダ)は答えた、「<われは考えて、有る>という<迷わせる不当な思惟>の根本をすべて制止せよ。内に存するいかなる妄執をもよく導くために、常に心して学べ。

917

内的にでも外的にでも、いかなることがらをも知りぬけ。しかしそれによって慢心を起こしてはならない。それが安らいであるとは真理に達した人々は説かないからである。

918

これ(慢心)によって『自分は勝れている』と思ってはならない。『自分は劣っている』とか、また『自分は等しい』とか思ってはならない。いろいろの質問を受けても、自己を妄想せずにおれ。

919

修行者は心のうちが平安となれ。外に静穏を求めてはならない。内面的に平安となった人には取り上げられるものは存在しない。どうして捨てられるものがあろうか。

920

海洋の奥深いところでは波が起こらないで、静止しているように、静止して不動であれ。修行者は何ものについても欲念をもり上げてはならない。」

921

[質問者はいわく]、「眼を開いた人は、みずから体験したことがら、危難の克服、を説いてくださいました。ねがわくは正しい道を説いてください。戒律規定や、精神安定の法をも説いてください。」

922

[師いわく]、「眼で見ることを貪ってはならない。卑俗な話から耳を遠ざけよ。味に耽溺してはならない。世間における何ものをも、わかものであるとみなして固執してはならない。

923

苦痛を感じるときがあっても、修行者は決して悲嘆してはならない。生存を貪り求めてはならない。恐ろしいものに出会っても、慄(ふる)えてはならない。

924

食物や飲料や堅い食べものや衣服を得ても、貯蔵してはならない。またそれらがえられないからとて心配してはならない。

925

こころを安定させよう。うろついてはならないるあとで後悔するようなことをやめよ。怠けてはならなぬ。そうして修行者は閑静な座所・臥所に住むべきである。

926

多く眠ってはならぬ。熱心に努め、目ざめているべきである。ものぐさと偽りと談笑と遊戯と婬欲の交わりと装飾とを捨てよ。

927 わが徒は、アタルヴァーダの呪法と夢占いと相の占いとを行ってはならない。鳥獣の声を占ったり、懐妊術や医術を行ったりしてはならない。
928

修行者は、非難されても、くよくよしてはならない。称讃されても、高ぶってはならない。貪欲と慳(ものおし)みと怒りと悪口を除き去れ。

929

修行者は、売買に従事してはならない。決して誹謗をしてはならない。また村の人々と親しく交わってはならない。利益を求めて人々に話しかけてはならない。

930

また修行者は高慢であってはならない。また(自分の利益を得るために)遠廻しに策したことばを語ってはならない。傲慢であってはならない。不和をもたらす言葉を語ってはならない。

931

虚言をなすことなかれ、知りながら詐(いつわ)りをしないようにせよ。また生活に関しても、知識に関しても、戒律や道徳に関しても、自分が他人よりもすぐれていると思ってはならない。

932

諸々の出家修行者やいろいろ言い立てる世俗人に辱しめられ、その(不快な)ことばを多く聞いても、あらあらしいことばを以て答えてはならない。立派な人々は敵対的な返答をしないからである。

933

修行者はこの道理を知って、よく弁えて、つねに気をつけて学べ。諸々の煩悩の消滅した状態が「安らぎ」であると知って、ゴータマ(ブッタ)の教えにおいて怠ってはならない。

934

かれは、みずから勝ち、他にうち勝たれることがない。他人から伝え聞いたのではなくて、みずから証する理法を見た。それ故に、かの師(ブッタ)の教えに従って、怠ることなく、つねに礼拝して、従い学べ。」

──このように師(ブッダ) はいわれた。