貞享元年9月、1684年、芭蕉41歳、「野ざらし紀行」で吉野を旅した折の句。

文書は、ほとんど「 野ざらし紀行」に重なる。
「み吉野の山の秋風さ夜更けて故郷寒く衣打つなり」(新古今集)の古歌にかよう。
宿坊の妻よ、その昔をしのぶよすがに、吉野の風物詩である砧(布をやわらかくするため、杵で布を打つ台のこと)を打つ音を聞かせてほしい。

「きぬたうちて」の詞書

独吉野の奥にたどりて、誠に山深く、白雲峰に重なり、烟雨(えんう)谷を埋めて、西に木を伐る音、東に低き院院の鐘の声は、心の底にこたへて、或坊にひとよあかしぬ。

 きぬたうちて我に聞かせよや坊が妻
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