貞享5年3月、1688年、芭蕉45歳、「笈の小文」の旅の途中吟。

どうということのない俳文と句だが、芭蕉の旅の実相を垣間見せてくれる。心細い旅の中で、農夫の親切で一夜を借り、それなりのもてなしを受けた。その主の情けがうれしくて、つい句が出てしまった。「はなのかげ」は農夫の家のことだろうか、芭蕉の気分のことだろうか。
「風狂の精神」の発露か。いや旅寝を続ける芭蕉の人の情けへの思いの深さか。


「はなのかげ」の詞書

やまとのくにを行脚しけるに、ある農夫の家にやどりて一夜をあかすほどに、あるじ情ふかく、やさしくもてなし侍れば、
             ばせを
 はなのかげうたひに似たるたび寝哉

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