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「キャリア教育とは何か」ノート

2013.11 三浦@int


1.なぜキャリア教育なのか

2.キャリア教育の定義

3.職業観・勤労観をはぐくむ学習プログラム「4領域8能力」

4.「4領域8能力」から「基礎的・汎用的能力」へ

5.「基礎的・汎用的能力」への転換

6.発達の段階に応じた体系的なキャリア教育

7.各学校におけるキャリア教育の目標


 


1.なぜキャリア教育なのか


 なぜ学ぶのかはなぜ働くのかにつながり、なぜ働くのかはなぜ生きるのかの問いに行き着く。学習の過程をそこまで拡張してしまうとまとまらなくなってしまう。これらをトータルに考え、理解する方策はないものか。とりあえずここでは教育という枠の中で考えてみることにする。「キャリア教育」や「ライフプランニング」といったアプローチ方法がある。
近年流行りの「キャリア教育」という課題にいて調べ考えてみた。この手の資料としては文科省での検討が総合的で進んでいるように思う。小・中・高校の学習段階において、しっかり「キャリア教育」をしていきましょう、というのが趣旨だが、「学び・働き・生きる」という課題に真正面から取り組んでいると思う。ここでは文科省関係の資料を中心にまとめてみる。

  「キャリア教育」という文言が公的に登場してその必要性がいわれたのは平成11年12月、中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」においてだった。同審議会は「キャリア教育を小学校段階から発達段階に応じて実施する必要がある」とし、さらに「キャリア教育の実施に当たっては家庭・地域と連携し、体験的な学習を重視するとともに、各学校ごとに目的を設定し、教育課程に位置付けて計画的に行う必要がある」と提言している。

「小学校・中学校・高等学校 キャリア教育推進の手引
−児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育てるために−」より 平成18年11月 文部科学省

(1)「生きる力」の理念を実現する視点から

 平成20年1月の中央教育審議会答申では、「生きる力」という目標を関係者で共有するため重視する視点として、次のような内容が指摘されている。
 ・将来の職業や生活を見通して、社会のために自立的に生きるために必要とされる力が「生きる力」であり、進路決定において子どもたちの希望を成就させるだけではない。
 ・変化の激しい社会で自立的に生きるためには、思考力・判断力・表現力等をはぐくみ、知識や技能を活用できる能力を育てる必要がある。
 ・自分に自信をもたせ、将来や人間関係に不安を抱えている子どもたちの、豊かなコミュニケーション能力や感性・情緒・知的活動の基盤である言語能力などを高める必要がある。
 これら3点は、すべてキャリア教育の目的とも深い関係があり、キャリア教育を推進することによって、より高められるものである。

(2)いわゆる「PISA型学力」の視点から

 OECDが2000(平成12)年から実施しているPISA(Programme for International Student Assessment)は、社会に積極的に参加することができるような実用的な知識・技能に焦点を当て、児童が将来の生活で直面する課題に対してどの程度準備できているかを「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の3分野を中心に測定しようとするものである。
 PISAにおけるそれぞれの設問の内容は、各分野の学習の意義を自らの将来と関係づけて理解させる上で極めて示唆的であり、それらを通して測定される能力(いわゆる「PISA型学力」)はキャリア教育で育成しようとしている能力と関連が深い。
 PISA型学力として、過去に調査された能力は次の3項目である。
○読解力
 自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力。

○数学的リテラシー
 数学が世界で果たす役割を見つけ、理解し、現在及び将来の個人の生活、職業生活、友人や家族や親族との社会生活、建設的で関心を持った思慮深い市民としての生活において確実な数学的根拠にもとづき判断を行い、数学に携わる能力。

○科学的リテラシー
 疑問を認識し、新しい知識を獲得し、科学的な事象を説明し、科学が関連する諸問題について証拠に基づいた結論を導き出すための科学的知識とその活用、及び科学の特徴的な諸側面を人間の知識と探究の一形態として理解すること、及び科学と技術(テクノロジー)が我々の物質的、知的、文化的環境をいかに形作っているかを認識すること、並びに思慮深い一市民として、科学的な考えを持ち、科学が関連する諸問題に、自ら進んで関わること。
(国立教育政策研究所監訳『PISA2006年調査 評価の枠組み』ぎょうせい 平成19年)

(3)キャリア教育の必要性の背景

.@少子高齢化社会の到来

就業者人口の減少・消費者人口の減少。
少子高齢化はどのような影響を与えるのか。
  ・働き手が少なくなり、経済の成長が弱くなり、成長しなくなる可能性がある。
  ・高齢者に対する社会保障の費用(医療、福祉、介護など)が増え、国の財源を圧迫させる可能性がある。
  ・年金が増加することによって、国の財源を圧迫する可能性がある。
  ・社会保障の費用が増えることで、若い世代の人達が負担する金額が大きくなって、若い世代の人達が大変になる。
  ・家族の機能が弱くなっていく可能性がある。
  →高齢者を支える機能、高齢者が子どもに様々なことを伝える機能が弱くなる可能性がある。
  ・地域社会の機能が弱くなっていく可能性がある。
  →特に、地域に若い人が少なくなることは、地域社会の存続自体も危なくなる可能性がある。

.A産業・経済の構造的変化
 20世紀後半におきた地球規模の情報技術革新に起因する社会経済・産業的環境の国際化、グローバリゼーションが原因。 我々の日常生活にも大きな影響を及ぼす。

 国民国家に編成されてきた資本と労働と商品は、国境を越え、ジェンダーや家族の枠組みを壊し、文化と政治・経済の領域性や時空間の制約すら越境する。
 それは同時に、映画・音楽・ファッション・食文化・スポーツ・ゲームなど、グローバル文化と呼べるような世界共通の消費文化の浸透や、伝統的な共同体の崩壊、近代以降の家族制度や男女の性別分業の解体といった、文化・社会の大きな変化でもある。
 近代とは、地球上の人々を、とどのつまり同じ人間として扱うことではなかったのか。しかしグローバル化は、その格差を拡大し、固定化する営みでもあった。新たな貧富の格差の分断線を引き始めている。

.B雇用の多様化・流動化等
 近年,日本社会の様々な領域において構造的な変化が進行している。特に産業や経済の分野においてはその変容の度合いが著しく大きく,雇用形態の多様化・流動化にも直結している。学校から職業への移行に問題を抱える若者が増え,社会問題ともなっている状況である。
 子どもたちに視点を移せば,自らの将来を展望しつつ学習に積極的に取り組もうとする意識が国際的にみて低く,働くことへの不安を抱えたまま職業に就き,適応に難しさを感じている状況がある。
 また,身体的には成熟傾向が早まっているにもかからず精神的・社会的自立が遅れる傾向があることや,勤労観・職業観の未熟さなど,発達上の課題も指摘されている。
 正規雇用の減少と非正規雇用の増大(30%を超える)が進む中、就職・進学を問わず、子どもたちの進路をめぐる環境は大きく変化している。また、教育を取り巻く環境も大きく変化してきており、これら社会と教育の動向から若者をめぐる様々な課題が浮かび上がっている。
 新規学卒者のフリーター志向が広がり,高等学校卒業者では,進学も就職もしていないことが明らかな者の占める割合が約9%に達し,また,新規学卒者の就職後3年以内の離職も,労働省の調査によれば,新規高卒者で約47%,新規大卒者で約32%に達している。

 一方、若者の勤労観、職業観の未成熟や、社会人・職業人としての基礎的・基本的な資質・能力の不十分さなどについても各方面から指摘されている。
  ・身体的には早熟傾向、精神的・社会的側面の発達は遅れがち
  ・全人的発達がバランス良く促進されにくい
  ・人間関係をうまく築くことができない
  ・自分で意思決定できない
  ・自己肯定感をもてない
  ・将来に希望をもてない

 このような中で、子どもたちが自立的に自分の未来を切り拓ひ らいて生きていくためには 「生きる力」を身に付け、
  ・社会の激しい変化に流されることなく、
  ・それぞれが直面するであろう様々な課題に柔軟にかつたくましく対応し、
  ・社会人、職業人として自立していくことができるようにする
 このような教育の推進が強く求められている。変化を恐れず、変化に対応していく力と態度を育てることが不可欠である。

(4)キャリア教育の課題

○学校から社会への移行をめぐる課題
 @ 就職・就業をめぐる環境の激変
  ・新規学卒者に対する求人状況の変動
  ・求職希望と求人希望との不適合の拡大
  ・雇用システムの変化
 A 若者自身の資質等をめぐる課題
  ・勤労観、職業観の未熟さと確立の遅れ
  ・社会人・職業人としての基礎的資質・能力が未成熟
  ・社会の一員としての意識の希薄さ・未発達傾向

○子どもたちの生活・意識の変容
 @ 子どもたちの成長・発達上の課題
  ・身体的な早熟傾向に比して、精神的・社会的自立が遅れる傾向
  ・働くことや生きることへの関心、意欲の低下
  ・社会的自立が遅れる傾向
  ・生活体験・社会体験の機会の喪失
 A 高学歴社会におけるモラトリアム傾向・進路の未決定傾向
  ・職業について考えることや、職業の選択・決定を先送りにするモラトリアム傾向の高まり
  ・自立的な進路意識や目的意識が希薄なまま、進学・就職する者の増加
 ↓
○学校教育に求められている課題 「生きる力」の育成
−確かな学力、豊かな人間性、健康・体力−
社会人・職業人として自立した社会の形成者の育成の観点から
  ・学校の学習と社会とを関連付けた教育
  ・生涯にわたって学び続ける意欲
  ・社会人・職業人としての基礎的な資質・能力
  ・自然体験、社会体験等の充実
  ・発達に応じた指導の継続性
  ・家庭・地域と連携した教育
 ↓
○キャリア教育の推進
  ・望ましい勤労観、職業観の育成
  ・一人一人の発達に応じた指導
  ・小・中・高を通じた組織的・系統的な取組
  ・職場体験・インターンシップ等の充実

.(5)キャリア教育に取り組む意義

○第一に、キャリア教育は、一人一人のキャリアの発達や個人としての自立を促す視点から、学校教育を構成していくための理念と方向性を示すものである。各学校が、この視点に立って教育の在り方を幅広く見直すことにより、教職員に教育の理念と進むべき方向が共有されると共に、教育課程の改善が促進される。
○ 第二に、キャリア教育は、将来、社会人・職業人として自立していくために発達させるべき能力や態度があるという前提にたって、各学校段階で取り組むべき発達課題を明らかにし、日々の教育活動を通して達成させることを目指すものである。このような視点に立って教育活動を展開することにより、学校教育が目指す全人的成長・発達を促すことができる。
○ 第三に、キャリア教育を実践し、学校生活と社会生活や職業生活を結び、関連付け、将来の夢と学業を結びつけることにより、生徒・学生等の学習意欲を喚起することの大切さが確認できる。このような取組を進めることを通じて、学校教育が抱える様々な課題への対処に活路を開くことにもつながるものと考えられる。
(中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23年1月31日))

 


2.キャリア教育の定義

  文科省は「キャリア教育」を、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」としている。

 「キャリア発達」とは、 「発達とは生涯にわたる変化の過程であり、人が環境に適応する能力を獲得していく過程である。その中で、キャリア発達とは、自己の知的、身体的、情緒的、社会的な特徴を一人一人の生き方として統合していく過程である。
社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程を「キャリア発達」という。」(中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23 年1月31 日))

 キャリア教育とは「キャリア発達を促す教育」である、と言われてもトートロジーのようでよくわからない。「キャリア発達」という概念の理解が前提になるが、現代社会の若者たちの成長・発達の統合的で包括的な概念になっていて、なかなか興味深い。

 以前は、キャリア教育とは、 「キャリア概念」に基づいて、「児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てる教育」のこととし、端的には、「児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育てる教育」としていた。
(キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書(平成16年1月28日))

 さらにさかのぼると、キャリア教育について、平成11年12月の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」では、「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」としていた。

 キャリア教育は、「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能」の育成という観点から、「キャリア発達を促し」、社会の中での個人の「役割をみいだす」というより幅広い能力の育成という観点に変遷していることがわかる。キャリア発達やキャリア教育は、幅広い概念だけにその分抽象的になっている。キャリアについて、さらに次のように説明している。

 キャリアとは、 「人は、他者や社会とのかかわりの中で、職業人、家庭人、地域社会の一員等、様々な役割を担いながら生きている。これらの役割は、生涯という時間的な流れの中で変化しつつ積み重なり、つながっていくものである。また、このような役割の中には、所属する集団や組織から与えられたものや日常生活の中で特に意識せず習慣的に行っているものもあるが、人はこれらを含めた様々な役割の関係や価値を自ら判断し、取捨選択や創造を重ねながら取り組んでいる。
 人は、このような自分の役割を果たして活動すること、つまり「働くこと」を通して、人や社会にかかわることになり、そのかかわり方の違いが「自分らしい生き方」となっていくものである。
 このように、人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、「自らの役割の価値」や「自分と役割との関係」を見いだしていく連なりや積み重ねが、「キャリア」の意味するところである。このキャリアは、ある年齢に達すると自然に獲得されるものではなく、子ども・若者の発達の段階や発達課題の達成と深くかかわりながら段階を追って発達していくものである。また、その発達を促すには、外部からの組織的・体系的な働きかけが不可欠であり、学校教育では、社会人・職業人として自立していくために必要な基盤となる能力や態度を育成することを通じて、一人一人の発達を促していくことが必要である。(第1章1)」 (中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23 年1月31 日))

キャリア=「個々人が生涯にわたって遂行する様々な立場や役割の連鎖及びその過程における自己と働くこととの関係付けや価値付けの累積」

 キャリア教育の意義・効果として、次の3点を挙げている。
 「第一に、キャリア教育は、一人一人のキャリア発達や個人としての自立を促す視点から、学校教育を構成していくための理念と方向性を示すものである。各学校がこの視点に立って教育の在り方を幅広く見直すことにより、教職員に教育の理念と進むべき方向が共有されるとともに、教育課程の改善が促進される。
 第二に、キャリア教育は、将来、社会人・職業人として自立していくために発達させるべき能力や態度があるという前提に立って、各学校段階で取り組むべき発達課題を明らかにし、日々の教育活動を通して達成させることを目指すものである。このような視点に立って教育活動を展開することにより、学校教育が目指す全人的成長・発達を促すことができる。
 第三に、キャリア教育を実践し、学校生活と社会生活や職業生活を結び、関連付け、将来の夢と学業を結び付けることにより、生徒・学生等の学習意欲を喚起することの大切さが確認できる。このような取組を進めることを通じて、学校教育が抱える様々な課題への対処に活路を開くことにもつながるものと考えられる。」(第1章2)

.

 

   

3.職業観・勤労観をはぐくむ学習プログラム「4領域8能力」

 国立教育政策研究所生徒指導研究センターでは、「職業観・勤労観をはぐくむ学習プログラムの枠組み(例)」を開発し、キャリア発達を促す視点に立って、将来自立した人として生きていくために必要な具体的な能力や態度を構造化ている。
 同学習プログラムでは、その枠組みの基本的な軸として、「人間関係形成能力」、「情報活用能力」、「将来設計能力」、「意思決定能力」の4 つの能力領域をあげている。

.1.「人間関係形成能力」
 他者の個性を尊重し、自己の個性を発揮しながら、様々な人々とコミュニケーションを図り、協力・共同してものごとに取り組む。
(1)【自他の理解能力】
 自己理解を深め、他者の多様な個性を理解し、互いに認め合うことを大切にして行動していく能力
(2)【コミュニケーション能力】 多様な集団・組織の中で、コミュニケーションや豊かな人間関係を築きながら、自己の成長を果たしていく能力

.2.「情報活用能力」
 学ぶこと・働くことの意義や役割及びその多様性を理解し、幅広く情報を活用して、自己の進路や生き方の選択に生かす。
(3)【情報収集・探索能力】 進路や職業等に関する様々な情報を収集・探索するとともに、必要な情報を選択・活用し、自己の進路や行き方を考えていく能力
(4)【職業理解能力】
 様々な体験等を通して、学校で学ぶことと社会・業生活との関連や、今しなければならないことなどを理解していく能力

.3. 「将来設計能力」
 夢や希望を持って将来の生き方や生活を考え、社会の現実を踏まえながら、前向きに自己の将来を設計する。
(5)【役割把握・認識能力】
 生活・仕事上の多様な役割や意義及びその関連等を理解し、自己の果たすべき役割等についての認識を深めていく能力
(6)【計画実行能力】
 目標とすべき将来の生き方や進路を考え、それを実現するための進路計画を立て、実際の選択行動等で実行していく能力

.4.「意思決定能力」
 自らの意志と責任でよりよい選択・決定を行うとともに、その過程での課題や葛藤に積極的に取り組み克服する。
(7)【選択能力】
 様々な選択肢について比較検討したり、葛藤を克服したりして、主体的に判断し、自らにふさわしい選択・決定を行っていく能力
(8)【課題解決能力】
 意思決定に伴う責任を受け入れ、選択結果に適応するとともに、希望する進路の実現に向け、自らの課題を設定してその解決に取り組む能力

 キャリア教育の推進に当たっては、各学校がこの4領域8能力の枠組みを参考として、独自の『育てたい能力や態度』の枠組みを開発することが求められている。
 進路指導部会では「competency-based(育成する能力を基盤とした)を理念として、小学校から高校の12年間に及ぶ進路指導の構造化を提案するにいたった」のである。

 進路指導部会は「能力(competency)」について次のように述べている。
 competencyとは、一般には能力と訳されるが、「ある課題への対処能力のことで、訓練によって習熟するもの」という意味を内包している。(中略)この言葉を用いる背景には、「できるかどうか」、「可能性があるかどうか」という個人の現能力を重視する姿勢ではなく、「訓練で習熟させられる」、「一緒に努力すればできるようになる」という「育成」の姿勢がある。(中略)ちなみにcompetentとは「自信をもてる」ことである。児童生徒が「やればできると感じ、自信がもてるようになる」ことがcompetency-basedの効果といえるであろう。(第2部第2章第1節U1)

 研究委員である小学校、中学校、高等学校、大学の教師と企業の代表者らが、海外のモデルを参考にしながら、「将来、自分の職業観・勤労観を形成・確立して、自立的に社会の中で生きているために、今から育てなければならない能力、態度とは何か」について議論し、日本の学校で児童生徒のためにできることを検討して、その結果、4領域12能力を試作した。特に小学校では社会性の育成、中学校、高等学校では主として在り方生き方の指導や進路指導の具体的な活動をできる限り網羅的に抽出した上で、それらの活動を4領域12能力の枠組みに沿って分類・整理を試みた。

 

   

4.「4領域8能力」から「基礎的・汎用的能力」へ

.「基礎的・汎用的能力」は、次の4つの能力によって構成される。
「人間関係形成・社会形成能力」
「自己理解・自己管理能力」
「課題対応能力」
「キャリアプランニング能力」

 これらの能力について、答申は次のように述べている。
「○ これらの能力は、包括的な能力概念であり、必要な要素をできる限り分かりやすく提示するという観点でまとめたものである。この4つの能力は、それぞれが独立したものではなく、相互に関連・依存した関係にある。このため、特に順序があるものではなく、また、これらの能力をすべての者が同じ程度あるいは均一に身に付けることを求めるものではない。
○ これらの能力をどのようなまとまりで、どの程度身に付けさせるのかは、学校や地域の特色、専攻分野の特性や子ども・若者の発達の段階によって異なると考えられる。各学校においては、この4つの能力を参考にしつつ、それぞれの課題を踏まえて具体の能力を設定し、工夫された教育を通じて達成することが望まれる。その際、初等中等教育の学校では、新しい学習指導要領を踏まえて育成されるべきである。」 (中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23 年1月31 日))

「○ キャリア教育の実践が、各機関の理念や目的、教育目標を達成し、より効果的な活動となるためには、各学校における到達目標とそれを具体化した教育プログラムの評価の項目を定め、その項目に基づいた評価を適切に行い、具体的な教育活動の改善につなげていくことが重要である。その際、到達目標は、一律に示すのではなく、子ども・若者の発達の段階やそれぞれの学校が育成しようとする能力や態度との関係、後期中等教育以降は専門分野等を踏まえて設定することが必要である。
○ キャリア教育において育成する能力や態度を測る指標の作成方法や検査手法等の開発を行うことは重要であり、今後、専門的な見地から研究が行われるとともに、各学校に提示するなどの支援が行われることを期待したい。」 (中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23年1月31日))

.「自分なりの勤労観・職業観」という多様性を大切にしながらも、そこに共通する土台として、次のような「望ましさ」を備えたものを目指すことが求められる。
「望ましさ」の要件としては、理解・認識面では、
  @職業には貴賤がないこと
  A職務遂行には規範の遵守や責任が伴うこと
  B どのような職業であれ、職業には生計を維持するだけでなく、それを通して自己の能力・適性を発揮し、社会の一員としての役割を果たすという意義があること
などがあげられるであろうし、情意・態度面では 
  @一人一人が自己及びその個性をかけがえのない価値あるものとする自覚
  A 自己と働くこと及びその関係についての総合的な検討を通した、勤労・職業に対する自分なりの備え
  B将来の夢や希望を目指して取り組もうとする意欲的な態度
などがそれに当たると考えられる。

 意欲や態度と関連する重要な要素として、価値観がある。価値観は、人生観や社会観、倫理観等、個人の内面にあって価値判断の基準となるものであり、価値を認めて何かをしようと思い、それを行動に移す際に意欲や態度として具体化するという関係にある。
 また、価値観には、「なぜ仕事をするのか」「自分の人生の中で仕事や職業をどのように位置付けるか」など、これまでキャリア教育が育成するものとしてきた勤労観・職業観も含んでいる。子ども・若者に勤労観・職業観が十分に形成されていないことは様々に指摘されており、これらを含む価値観は、学校における道徳をはじめとした豊かな人間性の育成はもちろんのこと、様々な能力等の育成を通じて、個人の中で時間をかけて形成・確立していく必要がある。
(中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23年1月31日))



5.「基礎的・汎用的能力」への転換


 これらの「基礎的・汎用的能力」は、「4領域8能力」をはじめとしたこれまでの諸提言を踏まえ、既に共通する要素が多く含まれているとの認識の下で、それらを再構成したものである。「4領域8能力」と「基礎的・汎用的能力」との関係は次のように整理できる。
 「基礎的・汎用的能力」を全く新しい能力論の登場として理解するのではなく、「4領域8能力」をめぐる実践上の課題を克服し、よりよい実践に向けて改善を図るための枠組みととらえて活用すべきである。
 しかし同時に、「4領域8能力」と「基礎的・汎用的能力」との間に見られる次のような差異にも留意する必要がある。

  平成23 年3 月に報告書(『キャリア発達にかかわる諸能力の育成に関する調査研究報告書』)をとりまとめて、公表した。
 意欲や態度と関連する重要な要素として、価値観がある。価値観は、人生観や社会観、倫理観等、個人の内面にあって価値判断の基準となるものであり、価値を認めて何かをしようと思い、それを行動に移す際に意欲や態度として具体化するという関係にある。
 また、価値観には、「なぜ仕事をするのか」「自分の人生の中で仕事や職業をどのように位置付けるか」など、これまでキャリア教育が育成するものとしてきた勤労観・職業観も含んでいる。子ども・若者に勤労観・職業観が十分に形成されていないことは様々に指摘されており、これらを含む価値観は、学校における道徳をはじめとした豊かな人間性の育成はもちろんのこと、様々な能力等の育成を通じて、個人の中で時間をかけて形成・確立していく必要がある。
(中央教育審議会「今後の学校におけるキャリ ア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23 年1月31 日))


.「基礎的・汎用的能力」の内容とその特質

 答申はその第1章において、「『キャリア教育』の内容と課題」という独立した項目を設け、キャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」として定義づけている。この定義を支えるのが、答申における「キャリア」をめぐる次のとらえ方と、それを前提としたキャリア教育の中心的課題の設定である。
 人は、他者や社会とのかかわりの中で、職業人、家庭人、地域社会の一員等、様々な役割を担いながら生きている。これらの役割は、生涯という時間的な流れの中で変化しつつ積み重なり、つながっていくものである。また、このような役割の中には、所属する集団や組織から与えられたものや日常生活の中で特に意識せず習慣的に行っているものもあるが、人はこれらを含めた様々な役割の関係や価値を自ら判断し、取捨選択や創造を重ねながら取り組んでいる。
 人は、このような自分の役割を果たして活動すること、つまり「働くこと」を通して、人や社会にかかわることになり、そのかかわり方の違いが「自分らしい生き方」となっていくものである。

 このように、人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ねが、「キャリア」の意味するところである。このキャリアは、ある年齢に達すると自然に獲得されるものではなく、子ども・若者の発達の段階や発達課題の達成と深くかかわりながら段階を追って発達していくものである。また、その発達を促すには、外部からの組織的・体系的な働きかけが不可欠であり、学校教育では、社会人・職業人として自立していくために必要な基盤となる能力や態度を育成することを通じて、一人一人の発達を促していくことが必要である。(第1章1)

.社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力

 本答申は、基礎的・汎用的能力の確実な育成をキャリア教育の中心課題としている。しかし同時に、本答申が、一人一人の社会的・職業的自立に必目する必要がある。答申は、「社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力に含まれる要素としては、次などで構成されるものと考える」として、
「基礎的・基本的な知識・技能」
「基礎的・汎用的能力」
「論理的思考力、創造力」
「意欲・態度及び価値観」
「専門的な知識・技能」
を挙げている。
図式化すると次のようになる。


(「社会的・職業的自立、社会・職業への円滑な移行に必要な力」の要素 より)

 以下、それぞれの「力」の説明部分を答申から引用する。

○ 「読み・書き・計算」等の基礎的・基本的な知識・技能を修得することは、
 社会に出て生活し、仕事をしていく上でも極めて重要な要素である。これは初等中等教育では、学力の要素の一つとして位置付けられ、新しい学習指導要領における基本的な考え方の一つでもある。小学校からの「読み・書き・計算」の能力の育成等、その一層の修得・理解を図ることが必要である。また、社会的・職業的に自立するために、より直接的に必要となる知識、例えば、税金や社会保険、労働者の権利・義務等の理解も必要である。

○ 基礎的・汎用的能力は、
 分野や職種にかかわらず、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力であると考える。例えば、企業が新規学卒者に期待する力は、就職の段階で「即戦力」といえる状態にまで学校教育を通じて育成することを求めているわけではなく、一般的には「コミュニケーション能力」「熱意・意欲」「行動力・実行力」等の基礎的な能力等を挙げることが多い。社会人・職業人に必要とされる基礎的な能力と現在学校教育で育成している能力との接点を確認し、これらの能力育成をキャリア教育の視点に取り込んでいくことは、学校と社会・職業との接続を考える上で意義がある。

○ 論理的思考力、創造力は、
 物事を論理的に考え、新たな発想等を考え出す力である。論理的思考力は、学力の要素にある「思考力、判断力、表現力」にも表れている重要な要素である。また、後期中等教育や高等教育の段階では、社会を健全に批判するような思考力を養うことにもつながる。創造力は、変化の激しい社会において、自ら新たな社会を創造・構築していくために必要である。これら論理的思考力、創造力は、基礎的・基本的な知識・技能や専門的な知識・技能の育成と相互に関連させながら育成することが必要である。

○ 意欲・態度は、
 学校教育、特に初等中等教育の中では、学習や学校生活に意欲を持って取り組む態度や、学習内容にも関心を持たせるものとして、その向上や育成が重要な課題であるように、生涯にわたって社会で仕事に取り組み、具体的に行動する際に極めて重要な要素である。意欲や態度が能力を高めることにつながったり、能力を育成することが意欲・態度を高めたりすることもあり、両者は密接に関連している。

○ 意欲や態度と関連する重要な要素として、価値観がある
 価値観は、人生観や社会観、倫理観等、個人の内面にあって価値判断の基準となるものであり、価値を認めて何かをしようと思い、それを行動に移す際に意欲や態度として具体化するという関係にある。
  また、価値観には、「なぜ仕事をするのか」「自分の人生の中で仕事や職業をどのように位置付けるか」など、これまでキャリア教育が育成するものとしてきた勤労観・職業観も含んでいる。子ども・若者に勤労観・職業観が十分に形成されていないことは様々に指摘されており、これらを含む価値観は、学校における道徳をはじめとした豊かな人間性の育成はもちろんのこと、様々な能力等の育成を通じて、個人の中で時間をかけて形成・確立していく必要がある。

○ 専門的な知識・技能
  また、どのような仕事・職業であっても、その仕事を遂行するためには一定の専門性が必要である。
専門性を持つことは、個々人の個性を発揮することにもつながる。自分の将来を展望しながら自らに必要な専門性を選択し、それに必要な知識・技能を育成することは極めて重要である。専門的な知識・技能は、特定の資格が必要な職業等を除けば、これまでは企業内教育・訓練で育成することが中心であったが、今後は、企業の取組だけではなく、学校教育の中でも意識的に育成していくことが重要であり、このような観点から職業教育の在り方を改めて見直し、充実していく必要がある。(第1章3)

 

   

6.発達の段階に応じた体系的なキャリア教育


 「多くの人は、人生の中で職業人として長い時間を過ごすこととなる。このため、職業や働くことについてどのような考えを持つのかや、どのような職業に就き、どのような職業生活を送るのかは、人がいかに生きるか、どのような人生を送るかということと深くかかわっている。 しかし、働くことや職業に対する理解の不足や安易な考え方等、若者の勤労観・職業観等の価値観が、自ら十分に形成されていないことが指摘されている。人生の中で「働くこと」にどれだけの重要性や意味を持たせるのかは、最終的に自分で決めることである。その決定の際に中心となる勤労観・職業観も、様々な学習や体験を通じて自らが考えていく中で形成・確立される。
 また、子ども・若者の働くことに対する関心・意欲・態度、目的意識、責任感、意志等の未熟さや学習意欲の低下が指摘されるなど、現在行っている学習と将来の仕事とが結びつけて考えられない者が多い。このため、子どもや若者にとって、自分の「将来の姿」を思い描き、それに近付こうとする意欲を持つことや、学習が将来役立つことを発見し自覚することなどが重要であり、これらは学習意欲の向上にもつながっていく。 このようなことを踏まえ、後期中等教育修了までに、(中略)生涯にわたる多様なキャリア形成に共通した能力や態度を身に付けさせることと併せて、これらの育成を通じて価値観、とりわけ勤労観・職業観を自ら形成・確立できる子ども・若者の育成を、キャリア教育の視点から見た場合の目標とすることが必要である。(第2章1)」

「基礎的・汎用的能力」を構成する4つの能力

○  基礎的・汎用的能力の具体的内容については、「仕事に就くこと」に焦点を当て、実際の行動として表れるという観点から、
「人間関係形成・社会形成能力」 人間関係能力
    【人間関係形成能力】【自己実現・人間関係尊重能力】
「自己理解・自己管理能力」 意思決定能力
    【課題決定・自己実現能力】【意思決定能力】
    【生き方選択能力】
「課題対応能力」 情報探索・活用能力
    【啓発的経験への取り組み能力】【キャリア情報活用能力】
    【学業と職業とを関連づける能力】【キャリアの社会的機能理解能力】
「キャリアプランニング能力」 キャリア設計
    【仕事における役割認識能力】【生活上の役割把握能力】
    【キャリア設計の必要性及び過程理解能力】
の4つの能力に整理した。

○  これらの能力は、包括的な能力概念であり、必要な要素をできる限り分かりやすく提示するという観点でまとめたものである。この4つの能力は、それぞれが独立したものではなく、相互に関連・依存した関係にある。このため、特に順序があるものではなく、また、これらの能力をすべての者が同じ程度あるいは均一に身に付けることを求めるものではない。(第1章3B)

その上で、それぞれの能力の具体的な内容を次のように整理している。

.ア 人間関係形成・社会形成能力
 「人間関係形成・社会形成能力」は、多様な他者の考えや立場を理解し、相手の意見を聴いて自分の考えを正確に伝えることができるとともに、自分の置かれている状況を受け止め、役割を果たしつつ他者と協力・協働して社会に参画し、今後の社会を積極的に形成することができる力である。

 この能力は、社会とのかかわりの中で生活し仕事をしていく上で、基礎となる能力である。特に、価値の多様化が進む現代社会においては、性別、年齢、個性、価値観等の多様な人材が活躍しており、様々な他者を認めつつ協働していく力が必要である。また、変化の激しい今日においては、既存の社会に参画し、適応しつつ、必要であれば自ら新たな社会を創造・構築していくことが必要である。さらに、人や社会とのかかわりは、自分に必要な知識や技能、能力、態度を気付かせてくれるものでもあり、自らを育成する上でも影響を与えるものである。具体的な要素としては、例えば、他者の個性を理解する力、他者に働きかける力、コミュニケーション・スキル、チームワーク、リーダーシップ等が挙げられる。

.イ 自己理解・自己管理能力
 「自己理解・自己管理能力」は、自分が「できること」「意義を感じること」「したいこと」について、社会との相互関係を保ちつつ、今後の自分自身の可能性を含めた肯定的な理解に基づき主体的に行動すると同時に、自らの思考や感情を律し、かつ、今後の成長のために進んで学ぼうとする力である。
 この能力は、子どもや若者の自信や自己肯定観の低さが指摘される中、「やればできる」と考えて行動できる力である。また、変化の激しい社会にあって多様な他者との協力や協働が求められている中では、自らの思考や感情を律する力や自らを研さんする力がますます重要である。これらは、キャリア形成や人間関係形成における基盤となるものであり、とりわけ自己理解能力は、生涯にわたり多様なキャリアを形成する過程で常に深めていく必要がある。具体的な要素としては、
  例えば、自己の役割の理解、前向きに考える力、自己の動機付け、忍耐力、ストレスマネジメント、主体的行動等が挙げられる。

.ウ 課題対応能力
 「課題対応能力」は、仕事をする上での様々な課題を発見・分析し、適切な計画を立ててその課題を処理し、解決することができる力である。
 この能力は、自らが行うべきことに意欲的に取り組む上で必要なものである。また、知識基盤社会の到来やグローバル化等を踏まえ、従来の考え方や方法にとらわれずに物事を前に進めていくために必要な力である。さらに、社会の情報化に伴い、情報及び情報手段を主体的に選択し活用する力を身に付けることも重要である。具体的な要素としては、情報の理解・選択・処理等、本質の理解、原因の追究、課題発見、計画立案、実行力、評価・改善等が挙げられる。

.エ キャリアプランニング能力
 「キャリアプランニング能力」は、「働くこと」の意義を理解し、自らが果たすべき様々な立場や役割との関連を踏まえて「働くこと」を位置付け、多様な生き方に関する様々な情報を適切に取捨選択・活用しながら、自ら主体的に判断してキャリアを形成していく力である。
 この能力は、社会人・職業人として生活していくために生涯にわたって必要となる能力である。具体的な要素としては、例えば、学ぶこと・働くことの意義や役割の理解、多様性の理解、将来設計、選択、行動と改善等が挙げられる。(第1章3B)

 「基礎的・汎用的能力」は「4領域8能力」を全て包含するものである。
 その上で、
a)「社会人基礎力」等において重視されていながら、「4領域8能力」においては必ずしも前面には取り上げられてこなかった「忍耐力」「ストレスマネジメント」などの「自己管理能力」の側面を加え、
b)「仕事をする上での様々な課題を発見・分析し、適切な計画を立ててその課題を処理し、解決することができる力」、すなわち「課題対応能力」に関する要素を強化したものと言えよう。

「基礎的・汎用的能力」  (三浦のまとめ)
領域
領域説明
能力説明
人間関係能力
(・社会形成能力)
◎自己と他者の両方の存在に関心をもち,様々な人々との関係を築きながら,自己を生かしていくための諸能力

○他者の個性を尊重し,自己の個性を発揮しながら,様々な々とコミュニケーションを図り,協力・共同してものごとに取り組む。
【自己実現・人間関係尊重能力】
○自己理解を進め,他者との関連で成立する自分の行動を,キャリアとの関連で理解する能力であり,その過程で他者を尊敬する心を養う能力
自他の理解能力
自己理解を深め,他者の多様な個性を理解し,互いに認め合うことを大切にして行動していく能力
【人間関係形成能力】
○他者から受ける自己への様々な影響を理解し,人間関係を形成しながら自己の成長を遂げていく能力
コミュニケーション能力
多様な集団・組織の中で,コミュニケーションや豊かな人間関係を築きながら,自己の成長を果たしていく能力
キャリア情報探索・活用能力
(自己理解・自己管理能力)
◎キャリアに関係する幅広い情報源を知り,様々な情報を活用して自分の仕事・社会との関係づけを通し,自己と社会への理解を深めるための諸能力

○学ぶこと・働くことの意義や役割及びその多様性を理解し,幅広く情報を活用して,自己の進路や生き方の選択に生かす。
情報収集・探索能力
進路や職業等に関する様々な情報を収集・探索するとともに,必要な情報を選択・活用し,自己の進路や生き方を考えていく能力
【啓発的経験への取り組み能力】
○実際の体験を通して現実のキャリアの世界を見つめる能力であり,それに取り組む能力
【キャリア情報活用能力】
○キャリアに関する情報を知り,発達段階に応じた活用を行い,自分の仕事と社会とを関連づけながら自己と社会への理解を深める能力
職業理解能力
様々な体験等を通して,学校で学ぶことと社会・職業生活との関連や,今しなければならないことなどを理解していく能力
【学業と職業とを関連づける能力】
○学校で学ぶことと社会生活や職業生活との関連,機能を知り,学校教育を理解する能力
【キャリアの社会的機能理解能力】
○キャリアに関する情報を社会における必要性や機能面で理解し,設計につなげる能力
意思決定能力
(課題対応能力)
◎進路選択で遭遇する様々な葛藤に直面し,複数の選択肢を考え,選択時に納得できる最善の決定をし,その結果に対処できる諸能力

○自らの意志と責任でよりよい選択・決定を行うとともに,その過程での課題や葛藤に積極的取り組み克服する。
選択能力
様々な選択肢について比較検討したり,葛藤を克服したりして,主体的に判断し,自らにふさわしい選択・決定を行っていく能力
【意思決定能力】
○意思決定にともなう責任を受け入れ,決定へのプロセスを理解する能力。様々な葛藤場面の複数の選択肢から,選択時に最善の決定をおこなう能力
【生き方選択能力】
○憧れから現実へ進行するなかで,自己の生き方にそった職業やその他の諸活動を選択していく能力
【課題決定・自己実現能力】
○自己理解を深め,自己実現を推し進める過程で直面する課題を設定し,それに真摯に取り組み解決しようとする能力
課題解決能力
意思決定に伴う責任を受け入れ,選択結果に適応するとともに,希望する進路の実現に向け,自ら課題を設定してその解決に取り組む能力
キャリア設計能力 ◎キャリア設計の必要性に気づき,それを実際の選択行動において実現するための諸能力

○夢や希望を持って将来の生き方や生活を考え,社会の現実を踏まえながら,前向きに自己の将来を設計する。
役割把握・認識能力
生活・仕事上の多様な役割や意義及びその関連等を理解し,自己の果たすべき役割等についての認識を深めていく能力
【生活上の役割把握能力】
○キャリア設計は毎日の生活の延長上にづき,そありそこでの役割を把握し,その関連を示す能力
【仕事における役割認識能力】
○仕事には様々な役割があり,それぞれがどのように関連し,変化しているかを認識する能力
【キャリア設計の必要性及び過程理解能力】
○計画的に人生を歩み,夢をかなえていくためのキャリア設計の必要性を,実際の選択行動の中で認識していく能力
計画実行能力
目標とすべき将来の生き方や進路を考え,それを実現するための進路計画を立て,実際の選択行動等で実行していく能力

 

  実施企業の多くは教育支援活動を行うことにより、参加者に好ましい効果があると考えているが、中でも、
  「望ましい勤労観、職業観の育成」(85.6%)、
  「基本的な社会常識・規範やマナーの習得」(81.2%)、
  「コミュニケーション能力の向上、協調性の習得」(69.8%)
に効果があると考える企業が多いことが示された。

2010年3月卒業者の採用選考にあたって特に重視した点
(日本経済団体連合会調査)

コミュニケーション能力
主体性
協調性
チャレンジ精神
誠実性
責任感
潜在的可能性
論理性
専門性
職業観・就労意識
リーダーシップ
柔軟性
創造性
信頼性
一般常識
学業成績
倫理観
出身校
語学力
感受性
クラブ活動/ボランティア活動歴
所属ゼミ/研究室
保有資格
インターンシップ受講歴
その他
81.6(%)
60.6
50.3
48.4
50.3
32.9
25.6
21.2
19.2
16.6
16.3
15.8
14.5
13.7
13.5
5.4
4.1
3.9
2.6
1.0
0.8
0.8
0.5
0
4.1


7.各学校におけるキャリア教育の目標


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学校におけるキャリア教育の目標例
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4つの能力領域を発達させる進路指導活動モデル 「進路指導活動モデル」 (Excel)

自己及び他者への積極的関心の形成・発展
自分及び他者の大切さに気付き、家族や友達・周囲の人々にかかわりながら積極的に働きかけようとする能動的な子ども。
「自己及び他者への積極的関心の形成・発展」については、他者とコミュニケーションをとる能力・態度を中心に、挨拶や返事、応答の仕方などの基本的な生活習慣の確立や、遊びや集団活動を通しての人間関係形成能力の育成など、具体的な目標を設定することが望まれる。小学校段階でこの能力を育成することは、中学校や高等学校段階における人格の形成に大きな影響がある。

【発達課題を踏まえたねらいの例】
  ○返事やあいさつをする。
  ○決められた時間や約束を守る。
  ○してよいことと悪いことがあることが分かる。
  ○ありがとうやごめんなさいが言える。
  ○自分の気持ちや意見を伝える。
  ○係や当番の仕事に取り組み、その大切さが分かる。
  ○作業の準備や片づけをする。
  ○自分のよいところを見付ける。
  ○友だちのよいところを認め励まし合う
  ○自分の意見や気持ちを分かりやすく表現する。 
  ○いろいろな職業や生き方があることが分かる。
  ○係や当番活動に積極的にかかわる。
  ○互いの役割や役割分担の必要性が分かる。
  ○将来の夢や希望をもつ。
  ○計画づくりの必要性に気付き、作業の手順が分かる。
  ○自分の仕事に対して責任を感じ、最後までやり通そうとする。

身のまわりの仕事や環境への関心・意欲の向上
身のまわりには様々な仕事がたくさんあることに気付き、そこで働いている人の思いや願いを探ろうとする子ども。
 「身のまわりの仕事や環境への関心・意欲の向上」については、発達段階と行動範囲に応じて、かかわり合う人への関心や働いていることの理解、感謝する気持ちの高揚など、仕事に関する知識を広げるだけではなく、意識面での成長を促す必要がある。また、仕事の大切さについて理解を深めることは将来設計能力の促進にもつながり、将来の仕事に対する関心・意欲を高めることができる。
  ○友達の気持ちを考える。
  ○身近な人々の生活に関心をもち、積極的にかかわる。
  ○身近で働く人の様子が分かり、仕事の内容ややり方に興味・関心をもつ。
  ○係活動や家での仕事などを通して、自分の役割の大切さが分かる。
  ○自分の生活を支えている身の回りの人に感謝する。
  ○お世話になった人々に感謝する。

夢や希望、憧れる自己イメージの獲得
得意なことや好きなことを生かして将来なりたい自分の姿を描いたり、目標をもったりすることを通して、できることをやり尽くそうと努力する子ども。
「夢や希望、憧れる自己のイメージの獲得」については、働くことの価値を形成し、社会の分業についての理解を深めることや、自分の仕事を自分で意思決定する能力を高めることを目標としたい。集団において役割を果たすことの有用感やだれかの世話になっていることへの感謝の気持ちを基盤に、仕事をすることのすばらしさを感じ取らせたい。また、自分のやりたいことや将来の希望など、自己実現に向けて努力する意欲をもたせることも大切である。
  ○自分の好きなことが言える。
  ○自分の好きなもの、大切なものをもつ。
  ○自分のよいところを見付け、自信をもつ。
  ○みんな仲良く学習したり遊んだりする。

勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の育成
係活動やお手伝いなど、その場で自分にできることを見つけて進んで実践しようとしたり、目標をもって努力しようとしたりする意欲をもった子ども。
「勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の育成」については、集団や社会のために働いている人の存在を理解し、感謝の気持ちを高めるとともに、自分の役割について考え、自分の能力を生かして積極的に仕事をする意識や態度を育てることを目標としたい。学年が進むにつれて視野が広がり、行動範囲も広くなることから、接する人も増えることが予想される。情報量も増加し、それらを整理・活用する情報活用能力や、正しく判断する能力や意思決定能力も求められる。
  ○自分の生活を支えている人に感謝する。 
  ○友達の気持ちや考えを理解しようとする。
  ○友達と協力して学習や活動に取り組む。
  ○働くことの楽しさが分かる。
  ○してはいけないことが分かり自制する。
  ○自分が挑戦したい役割を選択する。
  ○自分の役割の必要性を理解し、責任をもって役割を果たそうとする。
  ○活動において課題や困難が生じた場面において、解決方法を工夫して解決しようとする。
  ○思いやりの気持ちをもち、相手の立場に立って考え行動しようとする。
  ○自分の思いや考えを、場に応じた態度で適切に伝えることができる。
  ○ 規範意識をもち、社会におけるルールや相手との約束を守るなど信頼される行動をとろうとする。
  ○社会生活にはいろいろな役割があることやその大切さが分かる。
  ○将来のことを考える大切さが分かる。
  ○社会と自己のかかわりから自分の特徴に気付き、自分らしい生き方や憧れる生き方につ いて考える。
  ○夢や目標に向かってあきらめずに努力することの大切さが分かる。


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中学校におけるキャリア教育
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 小学校においてキャリア教育を理解し、進めていくためには、中学校におけるキャリア教育の実践を視野におさめ、児童生徒の長期的なキャリア発達を支援する観点に立って、計画的・組織的に実施することができるよう、各学校が連携を図りつつ、教育課程の編成の在り方を見直していく必要がある。
「進路の探索・選択にかかる基盤形成の時期」の小学生をより深く理解し、小学生にとって望ましいキャリア教育を実践していくためには、「現実的探索と暫定的選択の時期」としての中学校段階での実践の方向性を把握しておくことが望ましい。

▼小学校・中学校・高等学校におけるキャリア発達
小学校
進路の探索・選択にかかる基盤形成
  ・自己及び他者への積極的関心の形成・発展
  ・身のまわりの仕事や環境への関心・意欲の向上
  ・夢や希望、憧れる自己イメージの獲得
  ・勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の形成
中学校
現実的探索と暫定的選択の時期
  ・肯定的自己理解と自己有用感の獲得
  ・興味・関心等に基づく勤労観、職業観の形成
  ・進路計画の立案と暫定的選択
  ・生き方や進路に関する現実的探索
高等学校
現実的探索・試行と社会的移行準備の時期
  ・自己理解の深化と自己受容
  ・選択基準としての勤労観、職業観の確立
  ・将来設計の立案と社会的移行の準備
  ・進路の現実吟味と試行的参加


.▼児童の学習状況の評価

 キャリア教育の視点から評価の視点や配慮事項を設定し、評価していくことにより、各教科等の本来の目標をよりよく豊かに達成していくことが重要になる。

  ・キャリア教育の目指す目標が、具体的で明確であること
  ・目標が各学校や児童の実態に応じて、実行可能な内容であること
  ・教員がキャリア教育の意義と実践への計画、方法等を十分理解できていること
  ・教育活動の実行に際し、児童にどのような変化や効果が期待されるか等が、具体的に示されていること
  ・評価方法等が適切に示されていること
  ・教員が、評価の目的、方法等について理解し、適切に評価できる能力を有すること
  ・キャリア教育の推進体制が確立されていることなど

▼評価の方法

 信頼される評価の方法であること、また、多様な評価の方法を適切に組み合わせたものであること、そして、学習の過程を評価する方法であることが重要である。
 評価の方法としては、児童の学習状況を評価する教師の適切な判断に基づいた評価として実施することが必要であり、偏った判断ではなく、おおよそどの教師も同じように判断できる評価方法や評価基準等が求められる。例えば、あらかじめ指導する教師間において授業の目標に従った評価の視点を確認しておき、これに基づいて児童の学習状況を評価することなどが考えられる。

 多様な評価の方法としては、児童の発表や話合いの様子、学習や活動の状況などの観察による評価、児童のレポート、ワークシート、ノート、作文、絵などの制作物による評価、児童の学習活動の過程や成果などの記録や作品を計画的に集積したポートフォリオ、評価カードなどによる児童の自己評価や相互評価、教師や地域の人々等の記録による他者評価がある。また、複数の授業評価項目を設定し評価する評価尺度法、教師と児童の発言内容を記述する文章記述法、録音や映像による記録法などの評価の方法もある。なお、これらの多様な評価は、適切に組み合わせて評価することが考えられる。また、この際、教師間や教師と児童の間で評価に関する視点を共有していくことも考えられる。
 そして、学習の過程を評価する方法としては、上記の多様な評価方法が、学習活動の事前での児童の準備状態の把握と改善、学習活動の過程での児童の状態の把握と改善、学習活動の終末での児童の状態の把握と改善という、キャリア教育の各過程に計画的に位置付けられる中で、このそれぞれの過程を通して児童の学習状況の把握を生かした適切な指導に十分役立てられるように評価することが肝要である。
 また、キャリア教育では、その児童の内に個人としてはぐくまれているよい点や進歩の状況などを積極的に評価する個人内評価や、それを通して児童自身も自分のよい点や進歩の状況などに気付くようにすることも大切である。
 このようなキャリア教育における児童の学習状況の評価の方法は、児童の内ある資質や能力を的確に捉え、見定め、かつ、それをよりよくはぐくむ教師の学習指導に直接的に役立つ評価の方法として常に意識することも重要である。

▼授業改善等を行う契機となるべきもの

 キャリア教育における教育活動の改善を行うに当たっては、先に述べたように、よりよく児童をはぐくもうとするあたたかい児童理解と、それを基にした児童の学習活動を意味付ける深く丁寧な見取りを常に心掛けることは重要である。また、このあたたかい児童理解と丁寧な見取りについては、キャリア教育で学習指導をした教師相互に、あるいは学習指導に協力してくれた地域の人々などとともに語り合うことも、教育活動の改善には極めて重要である。

   


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「人間力」 内閣府・人間力戦略研究会
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(人間力戦略研究会報告書』平成15年4月)
「就職基礎能力」 厚生労働省(「若年者の就職能力に関する実態調査」結果 平成16年1月) 
「社会人基礎力」 経済産業省・社会人基礎力に関する研究会(『社会人基礎力に関する研究会―中間とりまとめ―』平成18年1月) 
「学士力」 中央教育審議会(「学士課程教育の構築に向けて(答申)」平成20年12月)

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経済産業省「社会人基礎力」

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 平成18年、経済産業省は「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」を3つの能力と12の能力要素から成る「社会人基礎力」として構想し、大学生を主対象にその育成推進施策を展開した。

社会人基礎力を構成する能力と能力要素能力
「前に踏み出す力」(アクション)〜一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力〜
能力要素
  主体性:      物事に進んで取り組む力
  働きかけ力:   他人に働きかけ巻き込む力
  実行力:      目的を設定し確実に行動する力

考え抜く力(シンキング)〜疑問を持ち、考え抜く力〜
  課題発見力:  現状を分析し目的や課題を明らかにする力
  計画力:     課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力
  創造力:     新しい価値を生み出す力

チームで働く力(チームワーク)〜多様な人とともに、目標に向けて協力する力〜
  発信力:     自分の意見をわかりやすく伝える力
  傾聴力:     相手の意見を丁寧に聴く力
  柔軟性:     意見の違いや立場の違いを理解する力
  情況把握力:  自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力
  規律性:     社会のルールや人との約束を守る力
  ストレスコントロール力: ストレスの発生源に対応する力

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.厚生労働省「就職基礎能力」
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 厚生労働省は、若年者と企業の間で就職に必要な基礎能力についての共通認識が必要であるとの立場から、平成16年度に、事務・営業の職種について企業が若年者に求めている「就職基礎能力」を提示した。

就職基礎能力を構成する能力
  コミュニケーション能力  意思疎通、協調性、自己表現力
  職業人意識         責任感、主体性、向上心・探求心(課題発見力)、職業意識・勤労観
  基礎学力          読み書き、計算・数学的思考、社会人常識
  ビジネスマナー       基本的なマナー
  資格取得          情報技術関係、経理・財務関係、語学関係

○ 幼児期の教育から高等教育まで体系的にキャリア教育を進めること。その中心として、基礎的・汎用的能力を確実に育成するとともに、社会・職業との関連を重視し、実践的・体験的な活動を充実すること。
○ 学校は、生涯にわたり社会人・職業人としてのキャリア形成を支援していく機能の
充実を図ること。(第1章冒頭部 概要)

   

 

とりあえず、ここまで。