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2.学力向上者-学力層別意識調査回答状況
 
 
 

 

1.意識調査と学力の相関調査

 近年、学力を指導要領の到達程度とみる狭義の学力のみならず、生活意識や学習意識や動機づけまで拡張した広義の学力に焦点があてられてきている。
 また、思考力や判断力・表現力さらにコミュニケーション能力・関心意欲態度など新しい学力も評価しようとという傾向が強まっている。これらも広義の学力の中にいれられている。
  ここでは、狭義の学力の向上要因としても考えられる生活意識や学習意識、生活・学習習慣について意識調査結果と学力との相関関係について、調査した結果を報告する。

 意識調査は、S社発行のWATテストの実施に伴って行われ、おおむね4選択肢からの選択式で、マークシートの回答用紙を使用した。
 例えば、「朝食を毎日食べている。」という設問に対して、回答は、
  1 とてもあてはまる
  2 まあまああてはまる
  3 あまりあてはまらない
  4 まったくあてはまらない
といった4つの選択肢から選択しマークしてもらった。

 相関係数は、5教科の学力偏差値25〜75の51段階と意識調査の4つの数字について、ピアソンの積率相関係数により求めた。選択肢の数字は、プラス方向とマイナス方向の相関があり、理論的にに+1〜-1の範囲の値をとることになる。+-1に近いほど直線的な関連性が強いといえる。
 教科の学力偏差値どうしの相関係数は0.6〜0.9の間の値をとることがほとんどで、非常に高い相関を示し、学力偏差値の信頼性の高さを示しているが、意識調査の選択肢と学力偏差値との相関は、おおむね+-0.1〜+-0.3の間程度で相関はあるものの、思っているほどの高い相関関係にはないようだ。
 今回の調査では、学力として5教科の偏差値を使用したが、4観点別学力と意識調査との相関調査も考えられる。また、因子分析や重相関調査などの高度な関係調査も考えられるが、そこから意味のある関連性や傾向性を取り出すことは容易ではなく、今回は相関分析資料を添付するだけにした。(これらについて統計的な分析の協力者がいれば資料を提供する。)
  2009年・2006年の調査は、もっとストレートな意味を汲み取るべくシンプルに5教科の偏差値と意識調査結果の相関計数を求めた。

 相関関係をあらわす相関係数は、原因と結果という因果関係をあらわすものではない。なんらかの関係性があるということの、その関係の強弱をあらわしたものである。

 調査結果のExcel表を添付した。

  中学1年生の意識調査と学力との相関計数 (2009年4〜6月実施)
  中学2年生の意識調査と学力との相関計数 (2009年4〜6月実施)
  中学3年生の意識調査と学力との相関計数 (2009年4〜6月実施)

<参考>2006年の調査  2009年とは意識調査項目が異なる。
  中学1年生の意識調査と学力との相関計数 (2006年4〜6月実施)
  中学2年生の意識調査と学力との相関計数 (2006年4〜6月実施)
  中学3年生の意識調査と学力との相関計数 (2006年4〜6月実施
)


●所見

 全体的に、学力と意識調査項目との相関計数は意外と低いという結果が出ている。学力偏差値はおよそ50段階だが、意識調査の返答は四択式であることに原因があるのかもしれない。また、テストでよい成績をとるということと生活・学習習慣や学習意識とは相関がそれほど強くなく、緩やかな関連性があるといった程度であることもはっきりした。
  教科の学習が好きかどうかということとその教科の成績がよいかどうかとは、相関はあるがそれほど高くはないだろうし、勉強時間が長いと成績も向上することは間違いないが、相関はそれほど高くないということも予想できる。勉強の内容や質、方法と関連しているようだ。当然、好きだから成績優秀というわけではないし、勉強時間が長ければよいというものでもない。
  中学段階では、習慣や意識よりも、具体的な学習技術や方法などの方が成績との関連性が高く、点数を取るためのちょっとした工夫で成績を上げることができるようだ。今回の意識調査の項目にはないが、勉強に対するある種の要領のよさや短時間の集中力や相互関係性の理解力などが関係しているようだ。また、勉強への動機付けや積極性として将来の志望や受験への対応といった外的な要因が有効であることは、一般的にいわれている通りであろう。
  だが、教育にしても学習指導にしても、当然のことながらテストで測られる教科の成績を上げるということだけが目的ではない。学習意識や習慣、学習技術や方法、学習への動機づけ、対人関係や社会との関わりなど幅広い学力の育成がねらいとなることは言うまでもない。

 次に、学力偏差値と相関関係がある程度ある質問項目について、その相関計数と所見をまとめた。

(1)「朝食を毎日食べている。」
1:毎日きちんと食べている
2:だいたい食べている
3:どちらかというと食べていない方が多い
4:ほとんど食べていない

2009年度調査

学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.1931
-0.2251
-0.2157
-0.2128
-0.2171
2年
-0.2005
-0.2304
-0.2223
-0.2240
-0.2361
1年
-0.1818
-0.1858
NaN
-0.2013
-0.1968
2006年度調査(正負変換後)
学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
0.1826
0.2211
0.2098
0.2236
0.2039
2年
0.2092
0.2585
0.2353
0.2537
0.2460
1年
0.1598
0.1835
NaN
0.1797
0.1677

 朝食をしっかりとることが、学力をつける前提のように言われることがあるが、実際には、学力との相関はそれほど高いわけではない。 なぜか、2年の相関が最も高い。逆に低学年では、朝食をとるとらないはそれほど学力には関係していないようだ。
 2006年と2009年の2回調査結果とも同じような傾向がみえるので、この相関係数は信頼できるといえるだろう。1年の英語は、テストを実施していない。

(2)「テレビ・ビデオ・DVDを見る時間について」
1:1日1時間未満
2:1日1〜2時間
3:1日2〜3時間
4:1日3時間以上

2009年度調査
学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.2074
-0.2273
-0.2450
-0.2149
-0.2159
2年
-0.1539
-0.1862
-0.1874
-0.1669
-0.1642
1年
-0.1662
-0.1719
NaN
-0.1692
-0.1443

2006年度調査(正負変換後)
学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
0.1154
0.1480
0.1840
0.1289
0.1457
2年
0.1138
0.1390
0.1489
0.1374
0.1260
1年
0.0769
0.0845
NaN
0.0852
0.1122

 高学年はこれらの時間が少ないほど勉強ができるといえるが、低学年では勉強の出来不出来と関係が薄くなる。高学年ほど学ぶ量が増えるため、勉強時間の長短が学力にストレートに影響してくるためだろう。
 2006年の調査結果では、学力との相関があまり出ていない。デレビやゲームをやる時間の長短は学力とほとんど相関がないという結果になっている。テレビやゲームをやる時間が1日4時間以上とかの極端なのめり込みでない限り、学習成績にはほとんど影響がないといえそうだ。

(3)「読書について」
1:ほとんど読まない
2:月1〜2冊は読む
3:月3〜4冊は読む
4:月5冊以上は読む

2009年度
学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
0.2132
0.0893
0.0917
0.1490
0.1227
2年
0.2623
0.1445
0.1315
0.1786
0.1921
1年
0.3431
0.2366
NaN
0.3028
0.2706

2006年度
学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
0.1303
0.0497
0.0373
0.1063
0.1340
2年
0.1855
0.0991
0.1106
0.1299
0.1745
1年
0.2124
0.1121
NaN
0.1845
0.2141

 読書量と学力との関係は、中学生段階では、一般に考えられているほど高くない。
 高学年になるほど、読書量の多少が学力に影響する度合いが少なくなる。1年生では、読書量と学力とは明かに相関しているのにである。これは何を意味しているのか。低学年では知識欲や情報欲、思考力や想像力が学力と結びつくが、高学年ではそれだけでは学力の向上に結び付かない。時間配分や勉強時間・勉強技術などが関係してくるためだろうか。過ぎた読書量は勉強にはマイナスに作用するということだろうか。
 読書量と数学・英語の学力との相関は、他教科に比べても際立って低い。国語との相関は、2009年度ではそれなりの相関が出ているが、2006年度では全般的に相関係数が低い。これはどうしたことか。読書量は1年次の国語と理科で0.3以上のそれなりの相関を示しており社会とも相関がある。読書はやはり国語の読解力や理科・社会の知識量に関係してくるといえるだろう。

 人間関係やコミュニケーション力と学力との相関もあまり高くはない。家族との会話や家事手伝い、友達との関係も、人間的成長には大切な要件ではあるが、中学段階での学力(偏差値)との直接的な関係性は薄い。だからといって読書と同様、軽視されてよいはずがない。読書は、中学段階では直接に学習成績に関わることは少ないが、大学教育や社会人になった時の学力や教養、人間的な成長やよき社会人としての資質に大きく関わってくる。

(4)「検定など、資格を取りたい。」
1:とてもそう思う
2:まあまあそう思う
3:あまりそう思わない
4:まったくそう思わない

学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.2094
-0.2054
-0.2384
-0.1949
-0.1981
2年
-0.2386
-0.2394
-0.2798
-0.2314
-0.2179
1年
-0.2039
-0.1909
NaN
-0.1929
-0.1624

 資格取得の意欲と学力とは相関がある。「資格取得の意欲」は、社会的な認知を求めるということだろう。将来の進路を考えてということもあるかも知れない。2年生が学力との相関が高く、1年と3年がそれほどてもないという結果になっている。

(5)「将来のことを考えるのは大事なことだ。」
1:とてもそう思う
2:まあまあそう思う
3:あまりそう思わない
4:まったくそう思わない

学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.0616
-0.0462
-0.0710
-0.0625
-0.0738
2年
-0.0863
-0.0726
-0.0991
-0.0958
-0.0984
1年
-0.0708
-0.0742
NaN
-0.0866
-0.0585

 意外なことだが、「将来のことを考える」ことと学力との相関関係は低い。
 学習意欲は、自分の将来の可能性を広げることになる大切な要件だが、「将来のことを考える」ことと学力との相関はあまり高くない。高学年になるほど相関計数が低くなっているが、先のことを考えるより目前の課題ということだろうか。
 「将来のこと」と学力の相関係数は低いが、学力層別にみると成績上位者ほど、「将来のこと」を考えているという人の比率が高い。「2.学力向上者-学力層別意識調査回答状況」を参照されたい。

(6)「勉強することそのものが楽しい。」
1:とてもそう思う
2:まあまあそう思う
3:あまりそう思わない
4:まったくそう思わない

学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.1859
-0.1955
-0.2180
-0.1969
-0.2181
2年
-0.1540
-0.2038
-0.2073
-0.1916
-0.2065
1年
-0.1692
-0.2108
NaN
-0.2024
-0.2037

 勉強することを楽しいと感じるかどうかは、知識欲、知的好奇心と関係がないわけではないが、いろいろな要因が考えられる。勉強ができるかどうかは、勉強が楽しいかどうかとそれなりの関係があるが、単純な直線的関係ではなさそうだ。

(7)「より効果が上がる方法や能率の上がるやり方を考え出すことが得意だ。」
1:とてもあてはまる
2:まあまああてはまる
3:あまりあてはまらない
4:まったくあてはまらない

学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.2264
-0.2322
-0.2268
-0.2452
-0.2565
2年
-0.1928
-0.2377
-0.2127
-0.2441
-0.2466
1年
-0.2048
-0.2494
NaN
-0.2352
-0.2220

 効果的で能率的な勉強方法を考えることと、勉強の出来不出来には、けっこう関連がある。
 勉強が出来る・学力が高いということと勉強技術は高い関係があることは、常識的にも納得できる。
勉強の技術や方法について考え、効率よく勉強する資質は、学習成績の高低に大いに関係してくる。学力を上げようとするなら、自分の能力を引き出すような勉強法や効果のある勉強法を、個々の生徒が考え、具体的に学習に適用してみることが必須である。

 以下、勉強技術の具体例といえる。

(8)「わからない問題は自分で進んで調べたり考えたりする。」
1:とてもあてはまる
2:まあまああてはまる
3:あまりあてはまらない
4:まったくあてはまらない

学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.2544
-0.3019
-0.2895
-0.2785
-0.3170
2年
-0.2115
-0.2906
-0.2608
-0.2506
-0.2707
1年
-0.2249
-0.2781
NaN
-0.2528
-0.2403

 勉強への積極性。知的好奇心、学習意欲や動機づけに関わる。なぜ、勉強しなければならないのか、その動機づけができていないと、勉強への積極性は生まれてこない。


(9)「学校以外での1日の勉強時間について」

1:30分未満
2:30分〜1時間
3:1〜2時間
4:2時間以上

2009年度
学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
0.1880
0.2444
0.2737
0.1813
0.2183
2年
0.1603
0.2629
0.2843
0.1853
0.1917
1年
0.2095
0.2315
NaN
0.1837
0.1861

2006年度
学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
0.2057
0.2208
0.2784
0.2276
0.2315
2年
0.1464
0.2312
0.2458
0.1785
0.1885
1年
0.1833
0.2227
NaN
0.1595
0.189

 やはり勉強時間の長短と学力は相関する。だが、それはど高い相関ではない。勉強時間の長さより、集中して効果的に学習できたかどうか、質の高い学習になっているかどうかが問題となるようだ。
勉強時間は一般には長いほうがよいが、睡眠時間が短いのは心身ともに良い結果を残さないようだ。

(10)「宿題は必ずするようにしている。」
1:とてもあてはまる
2:まあまああてはまる
3:あまりあてはまらない
4:まったくあてはまらない

2009年度
学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.3270
-0.3754
-0.3711
-0.3375
-0.3768
2年
-0.3036
-0.3436
-0.3318
-0.3171
-0.3406
1年
-0.2323
-0.2218
NaN
-0.2490
-0.2126

2006年度 (正負変換後)
学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
0.2850
0.3113
0.3229
0.3004
0.2719
2年
0.2744
0.3251
0.3176
0.2662
0.2767
1年
0.1959
0.2306
NaN
0.1659
0.1688

 勉強への積極性、忍耐、勤勉性。
 宿題をまじめににこなす忍耐と高い学力とは相関がきわめて高い。特に学年が上がるほどその傾向が強い。

(11)「教科書の太字の部分など、公式や要点を重点的に勉強するようにしている。」
1:とてもあてはまる
2:まあまああてはまる
3:あまりあてはまらない
4:まったくあてはまらない

学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.1973
-0.2049
-0.2023
-0.1873
-0.1899
2年
-0.2636
-0.2548
-0.2619
-0.2466
-0.2655
1年
-0.3042
-0.2751
NaN
-0.3081
-0.2887

 勉強への積極性、勉強技術。
 効果的な学習ということに対して注意をはらうこと。

(12)「入試に出た問題やハイレベルな問題を数多くこなすようにしている。」
1:とてもあてはまる
2:まあまああてはまる
3:あまりあてはまらない
4:まったくあてはまらない

学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.2701
-0.3634
-0.3431
-0.3043
-0.3368
2年
-0.2198
-0.3530
-0.3216
-0.2655
-0.2736
1年
-0.2178
-0.3159
NaN
-0.2411
-0.2297

 勉強への積極性、勉強技術。受験への意欲。
 受験ということに十分注意を払うこと。入試にからめて勉強すると効果が上がる。

(13)「テストでできなかった問題や苦手なところを中心に勉強するようにしている。」
1:とてもあてはまる
2:まあまああてはまる
3:あまりあてはまらない
4:まったくあてはまらない

学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.2433
-0.2719
-0.2707
-0.2604
-0.2909
2年
-0.2443
-0.2604
-0.2735
-0.2563
-0.2752
1年
-0.2311
-0.2392
NaN
-0.2460
-0.2273

 勉強への積極性、勉強技術。
 テスト結果に対して反省する姿勢の有無は学力と大きくかかわる。
 特に、間違えた問題について何故間違えたのか解き直す姿勢はとても大切。

(14)「テストに出そうなところを重点的に勉強するようにしている。」
1:とてもあてはまる
2:まあまああてはまる
3:あまりあてはまらない
4:まったくあてはまらない

学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.1950
-0.2080
-0.2089
-0.1864
-0.1956
2年
-0.2528
-0.2612
-0.2591
-0.2349
-0.2653
1年
-0.2070
-0.2059
NaN
-0.2240
-0.2016

勉強への積極性、勉強技術。受験への意欲。


(15)「先生が話したことで大事なところは、黒板に書かれなくてもノートに書くようにしている。」

学年
国語
数学
英語
理科
社会
3年
-0.2264
-0.2022
-0.2392
-0.2074
-0.2273
2年
-0.2197
-0.1825
-0.2116
-0.1885
-0.2167
1年
-0.2635
-0.2157
NaN
-0.2384
-0.2190

勉強への積極性、勉強技術。

 以上、中学生の段階で学力偏差値と相関の高い意識調査項目は、「学習方法」や「学習技術」といわれるものに集中している。学習意欲や動機づけも関係があるが、学習方法の知識や学習技術についての知識とより大きく関係している。

以上

 
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